活動レポート

2009年02月20日

2008年屋久島フィールド実習

2008年9月8日から14日まで、屋久島で京都大学大学院理学研究科生物科学専攻グローバルCOEプログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成」による大学院生の実習「フィールド科学実習」が行われました。このグローバルCOEプログラムは、分子レベルから生態系まで、ゲノムを共通のキーワードとして、世界に卓越した生物多様性と進化研究の拠点を形成することを目的としています。京都大学が伝統的に重視してきたフィールドワークと、最新の分子生物学的研究の両方の技術を身につけた、新しい世代の研究者を養成することは、本プログラムの大きな目的です。屋久島で行われた「フィールド科学実習」と、引き続き京都と犬山で行われた「ゲノム科学実習」は、そのための重要な取り組みです。
実習には、24人の大学院生・研究生と、グローバルCOEプログラム代表の阿形清和をはじめ、京都大学外を含めて9人の講師が参加しました。実習生は、サル・植物・菌類・昆虫の4つの班に分かれ、それぞれ4日間調査を行いました。実習生たちは夜遅くまで集めてきた標本を整理し、データを入力し、解析方法について議論していました。解散前日の9月13日に発表会を行い、それぞれの班の成果を代表の学生が発表しました。実習生の一人にタイからの留学生がいたため、パワーポイントのファイルは英語での作成を義務付けたこともあり、実習生にはかなりの高いハードルであったと思いますが、最後にはすばらしい成果を見せてくれました。

Clickで地図拡大 Yakushima Filed Work
この報告書は、屋久島での実習の直後に行われたゲノム科学実習の成果を合わせて、実習生たちがお互いに連絡を取って、議論しあいながら、約一月かけてまとめたものです。まさにこのプログラムの目指す、マクロ生物学(フィールドワーク)と、ミクロ生物学(分子生物学的実験)を組み合わせた、実習のレベルを超えた、研究として本格的な内容になっています。
実習中、夜には9人の講師による講義が交替で行われました。わたしが屋久島の自然の概要と自然保護の歴史について簡単に紹介したほか、それぞれの講師が、フィールドワークを通じて明らかにしてきたことを紹介し、異分野の研究者の間で白熱した議論が交わされました。講師の中には、昨年度学位を取得したばかりの、実習生にとってはモデルとなる若い研究者が3人いました。彼らの研究姿勢を垣間見ることは、研究を始めたばかりの実習生には、大きな励ましになったことと思います。

集合写真

9月12日には、宮之浦の環境文化村センターをお借りして、鹿児島県屋久島環境文化財団の屋久島研究講座と合同主催で講演会を行いました。当日は、実習生だけでなく、地元の方合計100人以上の方にご来場いただきました。この実習の講師の東樹宏和さんと横山和正さんが講演を行いました。東樹さんはヤブツバキとツバキシギゾウムシの共進化について、横山さんは毒キノコについて講演を行いました。ツバキの実が非常に大きいことは屋久島の人には広く知られていますが、その理由を見事に解き明かした東樹さんの研究は、たいへんな反響をよび、学会並みの鋭い質問もありました。横山さんの毒キノコの話も、中毒症状の激しさの話が印象的だったためか、散会後も何人もの方が残って質問しておられました。屋久島にはたくさんの研究者が入って研究を行っていますが、地元に成果を還元する機会は、まだまだ少ないのが現状です。この講演会は、その貴重な機会になったと思います。
実習中、実習生は屋久島町一湊にある町営施設「青少年研修センター」に宿泊しました。また、屋久島町一湊白川山に在住の山尾晴子さんと、わたしの妻である半谷美野子に、賄いをお願いしました。山尾さんは、数年前に惜しまれつつ閉店した、屋久島の超人気レストラン「かぼちゃ屋」を経営されていた方で、地元食材を活かしたたいへんすばらしい料理を作っていただきました。
この実習の集合日、わたしはガイダンスで受講生に4つの「課題」を出しました。ひとつは、単位を取得するための義務として、発表会を行い、報告書を提出すること。ふたつめに、屋久島にすむ多様な生物と、その生きる姿を自分の目で観察すること。三つ目に、地元の文化と慣習を尊重し、屋久島での生活を楽しむこと。最後に、安全第一。この4つの課題に対して、実習生はどのように取り組んだのか。この報告書、講師の講評、感想をお読みになってください。

サル班
講師:半谷吾朗(京大・霊長研)
チューター:松原 幹(京大・霊長研)
サル班
サル班・報告書(PDF)
サルの採食行動および食物、群れの空間配置、サルの聞き手、ゲノム実験
サル班・講評(PDF)
昆虫班
講師:曽田貞滋(京大・動物)
チューター:東樹宏和(産総研)
昆虫班
昆虫班・報告書(PDF)
屋久島におけるツバキシギゾウムシとヤブツバキの共進化関係についての調査
昆虫班・講評(PDF)
菌類班
講師:横山和正(滋賀大名誉教授)
チューター:佐藤博俊(首都大学東京, 現当gCOE研究員)
菌類班
菌類班・報告書(PDF)
屋久島のキノコ相の調査と、キノコのDNA解析と分子種同定によるヤクシマザルの食調査
菌類班・講評(PDF)
植物班
講師:篠原 渉(京大・gCOE特別講座)
チューター:川瀬大樹(地球研)
植物班
植物班・報告書(PDF)
屋久島高山植物における矮小化メカニズム
植物班・講評(PDF)

最後に、この実習を実施するにあたり、たいへん多くの方にお世話になりました。賄いをしてくださった方たち、宿泊場所を提供していただいた屋久島町環境政策課と、担当の泊征一郎さん、講師の宿泊場所であったやくさば荘のみなさん、そのほか一湊地区をはじめとする多くの屋久島の方々、講演会の開催に協力いただいた環境文化村センター館長の田川日出夫さんと担当の神田哲正さん、入林及び調査を許可してくださった屋久島森林管理署、環境省霧島屋久国立公園、鹿児島県、標本整理の場所を提供していただいた京都大学野生動物研究センター、屋久島町安房の世界遺産センター、実習生を京都から連れてきてくださったバスの運転手の薄木さん、実習の遂行を陰で支えてくださったグローバルCOE事務局の皆さんに、厚く感謝したいと思います。また、この実習は、これまで積み重ねられてきた屋久島の研究活動の蓄積があったからこそできたものです。とくに、屋久島町(および合併前の上屋久町)と京都大学(21世紀COEプログラム、グローバルCOEプログラム、生態学研究センター、霊長類研究所、野生動物研究センターなど)が共同で1999年から2008年まで開催してきた、全国の学部学生対象の実習「フィールドワーク講座」は、この実習の前身とも言えるもので、フィールドワーク講座のノウハウと実績がなければ、この実習はとてもできませんでした。これらの方々に、厚くお礼を申し上げます。

2009年2月22日
文責: 半谷吾郎(霊長類研究所)

参加者24名がサル班・昆虫班・植物班・菌類班に分かれて、5日間かけて屋久島を歩き、観察とサンプリングを行った調査結果を公開。


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